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技術コラム

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■自動制御とは

制御とは、JISによれば「ある目的に適合するように、対象となっているものに所要の操作を加えること」と定義されています。

たとえば、熱帯魚の飼育のために水槽の温度を一定に保ちたい場合を考えてみましょう。水槽の水はヒーターにより温められていますが、外気温などの影響を受けて温度が変化してしまうため、適切な温度になるよう常にヒーターの出力を調整しなければいけません。

このような場合、水槽の温度を一定に保つことが「目的」となり、ヒーターの出力を調整することが「所要の操作」に該当します。そして、水温や外気温を検知し、ヒーターの出力調整を行うシステム全体を「制御」といいます。

制御は、人が介在する「手動制御」と、機械が自律的に行う「自動制御」に大別されます。自動制御には、目的や仕組みによっていくつかの方式がありますが、代表的なものに「シーケンス制御」「フィードバック制御」「フィードフォワード制御」があります。

シーケンス制御

あらかじめ定められた順序や条件に従って、制御の各段階を逐次進めていく制御方式です。洗濯機が「洗い→すすぎ→脱水」と順番通りに動作するのが典型例で、決まった手順を正確に繰り返す場面で使われます。

フィードバック制御 (FB)

制御量(温度など)をセンサーで測定し、その結果(現在値)を目標値と比較します。そして、その差(偏差)を無くすように操作量を調整する方式です。常に「結果を見てから修正する」ため、予測できない外乱(予期せぬ影響)にも強く、精密な制御が可能です。PID制御はこのフィードバック制御の代表格です。

フィードフォワード制御 (FF)

フィードバック制御とは対照的に、「結果が出る前に先回りして手を打つ」制御方式です。外乱(温度を変化させる原因など)を直接測定し、その影響が制御量に現れる前に、影響を打ち消す操作をあらかじめ行います。応答が非常に速いのが利点ですが、予測できない外乱には対応できず、予測モデルが正確でないと誤差が残るという側面もあります。そのため、後述するようにフィードバック制御と組み合わせて使われることが多くあります。

■フィードバック制御

代表的なフィードバック制御の方法には次のようなものがあります。

ON/OFF制御

スイッチのONとOFFだけで行う制御です。代表的なものにサーモスタットがあります。

水を張った水槽にサーモスタットのついたヒーターを入れ、スイッチを入れてあらかじめ決められた水温を超えれば、サーモスタットがスイッチをOFFに。逆に、下回ると再びスイッチをONにする制御です。ONとOFFの操作しかないため、出力値は設定値の近辺を上下するのが特徴です。

このような「設定値」を超えたり下回ったりする現象を行きすぎ(オーバーシュート)や、戻りすぎ(アンダーシュート)と呼びます。操作量が0%と100%の2択しかない、とても簡単な仕組みなため、加湿器の加熱機構など、さまざまな機器や場所で活用されています。

ON/OFF制御|自動制御の主力「PID制御」とは

比例制御

ON/OFF制御とは異なり、制御量の変化に応じて連続的に操作量を変化させる制御です。目標とする設定値を中心に数%を比例帯と定め、比例帯においては、現在値と設定値の偏差に比例した操作量を行います。

水槽の水とヒーターを例にすると、水温が比例帯に達するまではヒーターは100%の出力で加熱し、水温が比例帯内に達した時点から比例制御が行われます。比例制御中は、比例帯の下限側の閾値では100%の出力、目標値では50%の出力、上限の閾値では0%となります。

ON/OFF制御に比べ、オーバーシュートやアンダーシュートが少なく、比例帯のどこかで均衡が取れるようになっているのが特徴です。しかし、比例帯の設定によって制御結果の安定性が大きく変わるという特徴もあります。比例帯の目安はおおむね2~10%ですが、装置によって異なるため、注意が必要です。

比例制御|自動制御の主力「PID制御」とは

PID制御

PID制御はフィードバック制御の一つで、現在とても多くの場所で使われるとても一般的な制御です。PはProportional(比例)、IはIntegral(積分)、DはDerivative(微分)を意味し、比例制御に微分制御と積分制御を加えたものをPID制御といいます。

P動作(比例制御)にI動作とD動作を組み合わせて動作させます。I動作、D動作は単独では動作しません。I動作は、比例制御時に発生するオフセットを小さくする役割を持ち、D動作は外乱に対応する役割を持ちます。

■PID制御の3つの動作

PID制御は、P、I、Dの3つの動作の組み合わせにより成り立つことは説明しました。ここでは、具体的にそれぞれの動作の仕組みについて解説をしていきます。

P動作(比例)

PID制御では、P動作(比例制御)が基本の動作になります。比例制御とは前項で述べたとおり、比例帯内において、設定値と現在値の偏差が操作量に比例する制御です。応答は速いですが、オフセット(残留偏差)が残ることがあります。

I動作(積分)

Iは時間積分による制御です。P動作では負荷の変動や装置の固有特性によって、設定値と現在値が一致せず、永続的にズレ(偏差)が発生することがあります。これをオフセット(残留偏差)といいます。

そこでP動作にI動作を組み合わせたPI動作を行うと、発生したオフセットを自動的に解消できるようになります。水槽の水を例にするならば、できるだけ設定値に近い温度で均衡がとれるよう、微調整を行う動作がPI動作です。

I動作では、オフセットしている時間の積み重ねと操作量を比例させ、P動作による操作量を調整させます。積分時間が短いと強い積分がかかり偏差を短時間で修正できるようになる一方、設定値を挟んで現在値が上下するハンチングが発生しやすくなります。
そのため、積分時間を適切に設定するのが制御のポイントになります。

D動作(微分)

D動作は、外乱などによる急激な変化に対応し、出力を修正するための制御です。水槽の例を踏まえると、水温が一度は安定していたとしても、外気温 の急激な上昇や下降などの外的要因によって変化してしまいます。

このような場合、P動作では現在値と目標値との偏差に比例して出力値を調整するのに対し、D動作を加えたPD動作では温度変化のスピードに比例して出力値の調整を行います。これにより温度変化の傾向を察知した時点で、それに対応する制御が行われるようになり、元の値に安定させるまでの時間が短くなります。つまり、偏差の変化率(微分)に比例した操作を行い、急激な外乱に対して素早く反応し、制御を安定させます。

■PID制御の性能評価指標

PIDパラメータの調整結果が「良いか悪いか」を客観的に判断するために、以下のような指標が用いられます。

・立ち上がり時間 (Rise Time): 制御量が目標値の特定範囲(例:10%~90%)に達するまでの時間。応答の速さを示します。

・オーバーシュート (Overshoot): 制御量が目標値をどのくらい行き過ぎたかを示す量。これが大きいとシステムに負担をかけることがあります。

・整定時間 (Settling Time): オーバーシュートの後、制御量が目標値の一定範囲内(例:±5%)に収束し、安定するまでの時間。

・オフセット (Offset) / 残留偏差: 制御が安定した後に、目標値と制御量の間に残る定常的なズレ。

優れたチューニングとは、これらの指標を制御対象の要求に合わせてバランスさせることを意味します。

■PIDパラメータの調整(チューニング)

PID制御を効果的に機能させるには、PID各動作の強さを決める「PIDパラメータ」を、制御対象に合わせて最適化(チューニング)することが不可欠です。

・ハンチング: パラメータが不適切な場合に、制御量が目標値の周りで振動し続ける現象です。

・代表的な調整手法: 経験則に基づく手動調整のほか、ジーグラー・ニコルスの方法や、その改良版であるCHR法といった計算式を用いる手法があります。

・オートチューニング: 近年の温度調節計などには、ボタン一つで最適なPIDパラメータを自動で算出する「オートチューニング機能」が搭載されています。この機能の内部では、限界感度法などのチューニング手法がプログラムとして実行されています。

■PID制御の実装と応用

・PIDの発展形: 基本的なPID制御には、目標値の急変時に出力が乱れるなどの課題があり、測定値微分先行型PID(PI-D制御)や偏差積分型PID(I-PD制御)といった改良版が考案されています。

・アンチワインドアップ: 操作量には物理的な上限・下限(例:バルブ開度0~100%)があります。偏差が大きい状態が続くとI動作の積分値が過剰に蓄積され、出力が上限に張り付いてしまう「ワインドアップ」が発生します。これを防ぐための「アンチワインドアップ処理」は、信頼性の高い制御に必須の実装テクニックです。

・プログラム実装: コンピュータでPID制御を行う際は、短い時間間隔(制御周期)ごとに偏差を計算し、P・I・D各項の和を操作量として出力する、という処理を繰り返します。

■PID制御の実例

PID制御は、温度制御やモーター制御、ロボット制御など、生産現場をはじめ、非常に多くの分野で使われています。またPID制御が用いられている装置は、外乱要因が多い機器や、頻繁に目標値を変える機器などが中心です。例えば、電気炉などでの使用例が多いでしょう。装置用としてPID制御ユニットが販売されており、それらを用いて生産設備などを構成するケースもあります。

PID制御が用いられる装置として、近年注目を集めているのはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に使用されるサーマルサイクラーが挙げられます。PCRではDNA断片を複製させるため、反応液の温度を定められた温度で上下に操作しなければなりません。このとき反応液の温度を調整するためにPID制御が使用されています。